タイトル:メディカル・ネチケット


メディカル・ネチケット

= 医療情報を提供される方に対して =

電子メール・電子掲示板システムを用いた情報支援の場合

現在治療を受けている患者と主治医との関係に配慮して情報の提供を行う。
患者さんがインターネットで情報を求めておられる場合、その多くが現在受けている医療に不満を感じておられる場合です。第3者からの情報提供により患者と主治医の信頼関係に悪い影響が及ばないように回答は配慮すべきです。

NIFTY SERVE内の喘息患者のフォーラム「すこやか村・喘息館」では、フォーラムを利用している患者に対して医療情報を得たことによって医師との信頼関係に悪い影響を及ぼしたか、責任医療機関を変えたか、などのアンケート結果を公開しています。この結果を見ると、幸い「主治医の説明がよく理解できるようになった」などの回答が多く、第3者の医療情報支援が主治医と患者とのパートナーシップの形成にむしろ役立つという結果になっています。

この結果は、ネットワークにさまざまな情報を提供して行けば、それを見た患者さんの治療に対するコンプライアンスは高まるという見方が出来ます。そう言う意味で大変重要なアンケート結果であると思っています。

診療行為はなく、助言行為である。診断治療処置は受けられないことを明記する。
コメントが必ずしも患者さんの正しい病状を評価しているとは限らないことを必ず書き加える。
必ず実際の診療を医療機関で受けることを勧める。
診断は問診や診察、検査結果などの総合的な判断で下されるものであり、患者から提供された一部の情報では、正しい説明になるとは限りません。その事を相談をされた患者に理解を求めましょう。「診察をうけたほうがよいのでしょうか?」などの質問に対しては、診察を受けた方がよいの回答が最も無難です。

相談によって不利益が生じても責任を負わないことを明記する。
これは相談を行っているサイトのほとんどがリスクヘッジとして明記しています。ネットワーク上の情報を利用して不利益が生じた場合、誰が責任を負うかは大変難しい問題です。少なく善意でコメントを介したにも関われず、それによって生じた不利益の責任を問われては大変です。リスクヘッジとして必ず明記しておきましょう。

しかしネットワーク上の医療情報支援を、責任を回避するために医療行為でないと早々に宣言するのは、まだ早いと思っています。確かに医師法で禁じられている無診察診療に該当するなどの指摘もありますが、ネットワークを利用した情報支援が国民のQOLの向上に役立つかどうか、いま検証している時期であると思います。

医療裁判に関する、或いは関連する可能性がある相談はしない 。
電子メールや電子掲示板システムの相談には限界があります。非常に重大な局面を迎えている相談では、第3者の助言が、事態をますます混乱させる場合があります。裁判に至らなくても死亡事故や回復のない重度な障害が生じた場合の相談なども同様です。ネットワークでの相談の限界を伝えお断りする事が賢明かと思います。

原則として本人または家族の健康に関わる相談のみに対応する。
古くからあるパソコン通信(電子掲示板システム)の医療相談では対象を制限している場合があります。これに対してインターネット上の医療相談では制限している記述は見あたりません。この違いは、パソコン通信が始まった当時まだ家庭で利用する場合が多かったことが影響しているかもしれません。しかしインターネットはむしろ職場で利用する機会が多く、相談を本人もしくは家族に制限する事に意識が向いていなかったからかもしれません。職場の同僚や友人の相談もあり得るとは思いますが、本人からの依頼がない限り原則として本人や家族に限っておく方がよいかもしれません。

患者さんのプライバシーに配慮する。
相談を下さる患者さんの中には従来の手紙のしきたりに従い律儀にお名前や住まいを名乗られて用件を尋ねておられる場合もあります。もちろん他の誰かにお名前や病名などの個人の情報が漏れないように配慮する必要があります。

一方、中には名前も名乗らず一方的に質問だけを届けてくる場合もあります。しかしもしかすると、ご自身が病気を持っている事を本当に誰も知られたくない気持ちからあえて名前を書いておられないのかもしれません。また匿名で質問される事もあります。これらの場合、コメントを返すかどうかは先生のお考え一つです。

コメントを返してあげようと思いメールアドレスを見ると、勤め先の会社のアドレスから送信されている場合があります。この場合、職場の電子メールアドレスにそのままコメントを書いたメールを送ると、メールを読んでおられるところを職場の誰かに見られてしまったりしないかどうかが少し気になります。

この場合多変面倒ですが、患者さんに病気のコメントを送信元のアドレスに返して本当によいものかどうかまず確認するか、もしくは職場から相談を送信しないようにコメントを送るかのがベストだと思います。

患者さんからの相談のやり取りは相談事例としてWebに載せておられる場合もあるかと思います。その際は、相談されてきた患者さんの承諾を取ることが望ましいです。またもちろん個人が特定される記述は編集や削除を行い、ホームページに掲載するべきです。

緊急の症状には対応できない事を明記する。
医師の都合により回答が出来ない場合もある。その場合は主治医の先生に相談するか、他の医療相談の受診を勧める。
もしもインターネットで回答が返ってくるまで医療機関の受診を待っている人がいると大変です。医療相談の回答は必ず出来るという保証はありません。電子掲示板を見てもいつまでもコメントが付かない発言がまれにあります。回答までの時間を明記しているサイトもありますが、それ以外の場合は、回答を待たないように説明しておくべきです。

匿名で医療情報支援活動を行うことは望ましくない。また提供した側の連絡法などについて記載があるのが望ましい。
これは意見の分かれるところだと思います。売名行為にならないようにあえて匿名で活動されている方がおられるのも事実です。私はインターネットはここ数年しか経験がありませんが、パソコン通信は10年近くやっています。その間、電子メールでもホームページでも本名しか使いませんが、私の名前やクリニックの場所を知ってお越しになった患者さんはホンの数名しかいません。インターネットでの活動で私の外来にお越しになる患者さんが急に増えるとはとても思えません。ですから、インターネットで実名や勤務先の名前を出しても 売名行為にならないのが実状です。

幾つかの事件を見ていますと匿名がほとんどです。匿名だから悪いことをするとは言いませんが、患者さんへの情報支援は何も隠すことはありません。正々堂々とやっていこうじゃありませんか。

患者からの相談が不明瞭な場合は、明らかにしてからコメントを返す。メールの書き方を紹介する、またはフォームを用意する。
医師に対して質問を書く作業に慣れている患者さんはまずおられません。書いているウチに尋ねたいことがぼやけてきたり、大切なことを書き忘れたりすることは多々あります。そういう場合はメールが何度もやり取りが続く場合があり大変面倒かもしれませんが、患者さんが何を最も知りたいのか明らかにしてもらうように、コメントを返すとよいでしょう。またメールの書き方を紹介したり、入力フォームを用意するのも良いでしょう。

固有の医療機関の名称はなるべく出さない。
医療機関の紹介は出来ない場合がある事を伝える。
電子メールで患者と医師が1対1でやり取りする場合は構わないと思いますが、掲示板システムやメーリングリストの場合、固有の医療機関名を出すと問題が生じる可能性があります。

相談事例をホームページで閲覧できるようにする。
電子掲示板システムを用いた相談の場合はすべて閲覧が出来ます。また電子メールでの相談も事例としてWebページで公開すれば新しい医療情報資源としてまた新しい別の患者に利用されます。こうした形式をとる場合、情報を利用した患者に不利益が生じた場合、患者と医師の1対1でやり取りするよりは、法的責任が回避しやすいのではないかと思っています。

また事例をWebページで公開する場合、患者のプライバシーが漏れないように最大限の配慮がなされなくてはなりません。

回答後のQOLの変化を報告してもらうように依頼する。
回答後に患者の容態がどう変わったか報告を求めるとよいでしょう。ネットワークでの医療相談がその患者のQOLの向上に役立ったかどうかの確認はきわめて大事な作業です。回答を下さるとは限りませんが、健康の回復の知らせが届くとまさにサイバードクター冥利に尽きます。

匿名でも疾病の質問が医学を勉強する素晴らしい機会だと考える。
「情けは他人の為ならず」という諺があります。これは他人に親切にすることは巡り巡って自分も恩恵を得ることができるというのが本来の意味だそうです。見たこともない患者さんからも相談に時間を費やしても、診療報酬にもなりませんし増患対策にもなりません。しかし、回答を書き込もうとすると以外と本を改めて読み直さなくてはならないことがたくさんあります。見知らぬ方の悩みを聞いたり解決方法を示してあげたりすることは、結局は自分の生涯教育につながることなのですね。

予防医学的な側面と早期治療の啓蒙、及び病気に対する不安除去など様々な効果を期待する。
ネットワークの相談に対応してもQOLの向上に本当に役立っているのかどうかは、なかなか明らかに出来ません。しかし、「川村こどもクリニック」の例の様に早期診断に結びつく場合もあります。この様に医療相談により救命できる症例はまれで、実際は心理的なサポートを求めている場合がほとんどです。

ネットワーク上の対応に追われて、日常の診療をおろそかにしない。
ネットワーク上のどこか誰か知らない患者さんよりも、まず目の前にいる熱を出したり容態の悪い患者さんの診療を何よりも最優先するべきです。アピオンのように1日の相談件数を制限したりすることも必要かもしれません。

ホームページを用いた情報支援の場合

サイトの責任者の名前や所在地などの実在を示す情報を記載する。情報の利用者から連絡が取れるように電話番号など電子メール以外の連絡方法も記載する。
健康や疾病に関する情報はある程度は責任を持って掲示しましょう。問題を起こしているサイトは匿名で実在が確認できない事が多いです。記載されている情報の真偽やソースを尋ねたい場合などにも必要です。また電子メールなどの連絡では上手く意思が伝わらない場合があるので、サイトの責任者の電話番号を記載しておく方がよいです。

掲載された情報の根拠が記載されている、または引用が明らかにされている。
論文や記事など紙面の発行物などの引用・参考を明らかにしておく事をお薦めします。ホームページ開設者の意見や考案を掲載することもあると思います。ただ、明らかになった事実なのか開設者の意見なのか、閲覧者が分かるように記載すべきです。

載された情報の記載日(更新日)が明らかにされている。
ホームページのコンテンツを作り続けるとずいぶん以前の情報を掲示したままになります。古い情報を今日も通用すると思われて利用されると問題が生じます。削除するのがベストですが、コンテンツを作成した日付を書き加えて、トップページには新しい掲載日の情報から利用するように明記しておくと良いでしょう。

入手した医療情報は主治医との相談の上、自己責任での利用を明記すること。
健康や疾病についてまだ十分な知識を持っていない方のために善意で開いたホームページであっても、掲載された情報を間違って利用される事があってはいけません。患者の容態を総合的に把握している主治医に、患者が入手した情報が適切なものかどうか判断を求めるように記載しましょう。掲載した情報について責任を利用者に押しつけるようですが、免責事項として書いておくことをお薦めします。

遠隔医療の場合

遠隔医療を利用する場合のガイドライン

医療情報技術の総合的評価と推進に関する研究
 http://square.umin.ac.jp/~enkaku/Welcome.html

遠隔医療研究/総括班報告書(日本語版) Study Report revised in March 1997 (in Japanese)
 http://square.umin.ac.jp/~enkaku/96/Enkaku-RepSoukatu-nof.html

厚生省より各都道府県知事宛に出された通知で「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」の「留意事項」 NOTICE-KENSEI#1075(1997.12.24)
 http://square.umin.u-tokyo.ac.jp/~enkaku/NoticeMhw971224.html

遠隔医療では患者さんの負担にならないように配慮する
上記のように立派なガイドラインがまとめられていますので、私がいまさら何も言う筋合いもありません。

一般に遠隔医療の場合、利用する患者さんと医師との連絡は十分に行えているのが普通です(そうでなければ患者さんは通信機器などを説明もなしに使うことはできませんから)。有益性や患者さんの負担についての同意さえ十分にとれていれば大きな倫理の問題というのは生じないと思っています。

私が行った遠隔医療は、喘息患者さんが毎日つけておられる喘息日誌(ピークフロー日誌)をインターネットで主治医の元に届けるシステムです。この方法について理解のある患者さんを選んでお願いしていたのですが、週に一回でも必ずホームページを開けてデーターを入力するという作業は、その負担よりも有益性を考え運用したつもりですが、患者さんは本当に重荷に感じていなかったのでしょうか、いまから思えば少し自信がありません。

私のケースは特殊で、一般には遠隔医療というと画像を中心とした医療をイメージします。操作が複雑な高度な機器を自宅に据え付けたりして患者さんに精神的なプレッシャーをかけるようなことは避けるべきでしょう。


メディカル・ネチケット