子どものいる家庭におけるインターネット上の
医療情報支援の利用実態について

Survey on status of utilization of a medical information service system on Internet by families having children.

○西藤成雄(西藤こどもクリニック)、西藤正雄(さいとう小児科)、口分田政夫*、目方由子(国立療養所紫香楽病院小児科外来 *現:びわこ学園)、野々村和男(守山市民病院小児科)、青谷裕文、島田司已(滋賀医科大学小児科)
Key Word:
医療情報支援、家庭、インターネット、パソコン通信、電子メール

Abbreviations:
INET インターネット; e-mail 電子メール; HP ホームページ;

論文要旨
 パソコン通信やインターネット(以下INET)などの普及により、家庭において様々な医療情報を得ることが可能である。しかしこれらの情報支援がどの程度家庭に普及しているかは明らかにされていない。滋賀県内の複数の医療機関小児科外来において、子どものいる家庭でのINETの普及や医療情報支援の利用実態、子どものために家族が求める医療情報についてアンケート調査を行った。30.8%の家庭にINET利用者がおり、父親に次いで子どもの利用が多かった。INET利用経験者のいる家庭で、医療情報を利用した経験があるのは8.2%、調査対象全体に占める割合は2.5%にとどまった。医療情報支援を利用した家族の感想からは、主治医の説明の補足として利用していると考えられた。また将来的には85.1%の家庭がINETをが利用したいと回答しており、INET上の医療情報を利用する外来患者が今後増えると予想される。

【はじめに】
 パソコン通信やインターネット(以下INET)などのネットワークの普及により、様々な情報が簡単に手に入れられる今日である。医療情報も例外ではなく、医療機関もしくは医療関係者によってINET上にホームページ(以下HP)を開設され医療情報が提供されている1-5)。また、パソコン通信でも電子会議室(以下BBS)を用いた医療情報提供や医療相談6-10)、また電子メール(以下e-mail)やHPのフォームを用いた外来患者の指導も行われ、その有用性が報告されている11-13)。そして遠隔医療も今後目覚ましい勢いで普及していくと考えられる14)。この様にINETを利用すれば家庭においても様々な医療情報支援を受けることが可能である。

 しかしこれらの医療情報支援が、どの程度家庭に普及しているかは明らかにされていない。INET上の不適切な情報による混乱や第三者の情報支援による主治医との信頼関係への影響も懸念される。

 今回、滋賀県内複数の医療機関に協力を依頼し、外来を受診した患児の家庭を対象に、子どものいる家庭でのINETの普及や医療情報支援の利用実態、子どものために家族が求める医療情報についてアンケート調査を行った。

【対象と方法】
 対象は小児科外来を訪れた初診の患児の家庭とし、アンケートによる調査を行った。滋賀県内の5つの医療機関から協力が得られ、平成9年1月始めから3月末まで行い合計315件の回答を得ることができた。

 表1に小児科一般外来で行ったアンケートを示す。外来に来られた家族にINETやパソコン通信を厳密に区別して回答を求めるのは困難と思われ、質問はそのいずれか、または両方の利用を尋ねた。なおパソコン通信は、今日ではINETへ融合がみられ厳密な区別が困難なため、本稿ではINETに含めた。

【結果】
[家庭のパソコン所有率]

 まず家庭内にパソコン(通信機能のあるワープロなどを含む)の有無を尋ねたところ32.1% (101/315件)の家庭が所有していた(表2)。

Table-2

[利用経験者の有無と内訳]

 家庭内のINET利用者の有無とその家族について質問した。利用者のいない家庭は69.2%(218/315件)で、残りの30.8%(97/315件)にはINET利用者がいた(表3)。家庭内のINET利用者は父親が78件と最も多く、父親や母親との併用をあわせた子どもの17件が次いだ。その他に母親の利用が4件、その他が2件あった。

Table-3

[INETの利用場所]

 INETの利用場所を尋ねると職場が63件で、その次が自宅の35件、そして学校の6件と続いた(表4)。
 またパソコンを所有する家庭の数(101件)と家庭でINETを利用されている回答数(35件)から、家庭のパソコンがINETに接続されている割合は34.7%と考えられた。

Table-4

[医療情報の利用経験]

 INETの利用経験のある97名に対して「お子さんの健康・病気のことで利用されたことがありますか」と医療情報の利用経験を尋ねてみた。その利用経験者は 8.2%(8/97件)であり、調査対象全体に占める割合は 2.5%(8/315件)となった(表5)。

Table-5

[利用時の感想]

 医療情報の利用経験者の8名の方に対してその感想を尋ねた。「受診している医師の説明がむしろよく理解できるようになった」が2件、「子どもの疾病について有益な情報が得られた」が5件、「その他」が1件であった(表6)。

Table-6

[INETの将来の利用]

 「将来的にINETを利用してみたいですか」という質問に対しては 85.1%(268/315件)が利用したいと答えた(表7)。

Table-7

[家庭で必要な医療情報]

 「家庭でお子さんの健康・疾病に関してどの様な情報が利用したいですか」の質問は、記述の回答をいくつかに分類してみた。「簡単な症状の自宅での対応」が26件、「病気のガイダンス」が24件と多数を占めた。ガイダンスでは、とくにアトピー性皮膚炎についての希望がいくつか寄せられていた(表8)。

Table-8
【考案】
 家庭のパソコン普及率は全国平均は16.6%(滋賀県は20.4%)15)に対して我々の調査は32.1%であった。またパソコン所有家庭におけるINETの接続割合は、全国平均30.13%16)に対して本調査では34.7%であり、これも従来統計をやや上回る結果となった。この様に子どものいる家庭を対象にすると、パソコンやINETの普及は従来統計よりも高いと考えなくてはならない。

 パソコンを所有しINETを利用できる家庭における利用者は平均1.22名とされている16)。家族では父親が職場や自宅で利用している他に、本調査の結果からは子どもにINETの利用経験がある場合が多いと考えられる。

 小中高等学校、盲・聾・養護学校では次々にHPの開設が行われ、平成9年1月時点で約3%の教育機関で公開されているとされている17)。また、HPの開設はしていなくてもINETを利用した授業は多数行われているとされ、今後も子どもたちがINETに触れる機会はますます増える。文字だけではなく画像や動画、音声を利用できるHPは子ども達の興味を惹き、患児に健康や疾病の説明を行うのに応用が可能であろう。

 今日家庭でINETを通じて利用できる医療情報支援には、HPによる疾病に関する情報の掲載やe-mail・BBSを利用した医療相談、そして遠隔医療などがあげられる。文字や画像、音声、動画など手軽に表示することが出来るHPは、疾患の説明や服薬指導などに広く利用されている1-5)。紙によるメディアと違いいつでも最新情報に更新し配布することが可能である。BBSには疾病を持つ子供の家族からの質問が多数寄せられ、ボランティアの医師や同じ体験をもつ家族からの回答が寄せられている6-10)。医療相談や外来の患者の指導にe-mailを役立てている報告もある11,12)。またインフラ整備により遠隔医療の普及も期待される14)。

 しかしこれらのINET上の医療情報支援の利用は、小児科外来を受信する患者家族で2.5%にとどまった。INET利用経験者がいる家庭でも8.2%であった。有用とされるINETを利用した医療情報支援は今日一般家庭にまだ広く浸透していないと考えられた。

 その一方、INETを将来利用したいと考えている家庭は85.1%にも及んだ。また家庭で必要とされる医療情報には、多岐にわたる回答が寄せられた。その多くは高度な判断が必要とされる医療情報ではなく、医師の診断をあおがなくても家庭で対応する内容であった。

 第三者の情報支援も内容によっては主治医と患者の信頼関係に影響を及ぼすことも懸念されるが、実際にINET上の情報支援を利用した家族の感想からは、主治医の説明を補足する”セカンドオピニオン”として利用している事がうかがえる。第三者の情報支援を受けた患者の多くは、むしろ主治医の治療に理解を深めて外来を受診していると考えられる。

 これからはINET上で医療情報を得てから外来に訪れる家族の頻度も増すであろう。またHPを開設する医療機関が増え患者への情報提供の仕方も変化するであろう。情報不足による患者家族の不安を解消し、主治医との信頼関係の構築に貢献し、外来診療に有益となる情報支援が今後INET上で行われる事を期待する。

【文献】
1)川村和久:育児支援とホームページ(1). Neonatal Care 10: 25〜33, 1997
2)川村和久, 山中龍宏: 小児科外来診療とコンピューター. 小児科の進歩17. 診断と治療社: 45〜48, 1997
3)國本正雄: インターネット事始め 日常診療への活用. 日本医事新報 3788: 64〜67, 1996
4)佐藤圭, 岡本克実, 久保裕: WWWを用いた喘息に関する医療情報提供システムの試み. アレルギー 46, 237〜237, 1997
5)西藤成雄, 野々村和男, 近藤恭子, 青谷裕文, 島田司已: 喘息外来における患者教育へのホームページの利用.アレルギー 46, 238〜238, 1997
6)台俊一: 小児科医療とコンピューターネットワーク. 小児科の進歩17. 診断と治療社: 49〜52, 1997
7)台俊一: パソコン通信と育児相談. 小児内科 27: 71〜76, 1995
8)土屋廣幸: インターネットを利用した医療相談・情報提供. 医学のあゆみ 179: 413〜415, 1996
9)久保裕: パソコン通信を利用した喘息患者会.アレルギー 46, 237〜237, 1997
10)山本淳: パソコン通信のフォーラムを利用した患者教育について(小児科の立場から).アレルギー 46, 238〜238, 1997
11)諏訪部章, 富永真琴: インターネットによる吸入指導が奏効した気管支喘息の3症例. 呼吸. 17, 690〜694, 1998
12)西藤成雄, 山本淳, 野々村和男, 青谷裕文, 島田司已: ホームページを用いた喘息日誌の使用経験. アレルギー. 47. (掲載予定), 1998
13)佐藤圭, 岡本克実: インターネット・パソコン通信の応用について.医報フジ.105, 52〜59, 1998
14)伊藤雅彦, 影山さち子, 中野俊至, 石井光, 来栖博, 立石欣司, 法橋尚宏, 三谷博明: アレルギー診療・教育現場でのマルチメディア活用−TV会議システムとインターネット.アレルギー 46, 289〜289, 1997
15)総務庁統計局: 全国消費実態調査, 1994
16)矢野さよみ: インターネット白書'97. 株式会社インプレス, 東京, 56〜57, 1997
17)越桐國雄: インターネット白書'97. 株式会社インプレス, 東京, 100〜110, 1997

= 論文発表 =

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