喘息(ぜんそく)とは、

   喘息は「気道過敏性の亢進」    遷延する気管支の炎症
   小児では質のよい治り方をめざそう

   アレルギーとは    アレルギーと気道の過敏性
   気道に反応を起こさせるもの

   喘息の病型    喘息と間違えやすい病気

   統計と喘息の転帰


喘息は「気道過敏性の亢進」

 喘息とは、発作性にゼイゼイやヒューヒュー(喘鳴)・息が苦しい(呼吸困難)・胸が苦しい・咳がひどい、などの症状が繰り返しみられる病気で、それらの症状は自然に、もしくは治療により軽快・消失します。

 この様に喘息は空気の通り道である気管支の病気ですが、喘息を起こしている時の気管支はどういう状態になっているかを模式図に表しました。喘息発作を起こしているときの気管支には「気管支平滑筋の収縮」「粘膜の浮腫」「分泌物の増加」などの変化が起こっていると考えられています。図では分かりやすく3つの変化を別々に描きましたが、実際にはこれらの反応は同時に、気管支の至る所で起こっているはずです。

気管支の収縮 気管支の収縮

 ・気管支を取り囲む平滑筋収縮による気道の狭窄。
 

気管支粘膜の浮腫 気管支粘膜の浮腫

 ・気管支粘膜の浮腫(むくむこと)。
 

分泌物の増加 分泌物の増加

 ・いわゆる痰の増加
 

 実はこれらの変化は正常の方でも観察することがあります。それは外界の変化(気温や気圧など)、日内変動や異物の吸入や感染を起こしたときなどに生体の防御反応として観察されます。しかし喘息の患者さんはこれらの反応がわずかな刺激でが激しく起こる特徴を持っています。このわずかな刺激で反応を起こすことを「気道過敏性の亢進」といわれ、これが喘息の本体です。

 こうした反応は発作が治まれば、生理学的にみると肺機能は正常に戻るので、喘息は「発作性の疾患」と長い間定義されていました。しかしこれは研究が進むに連れ間違っていることが明らかになってきました。

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遷延する気管支の炎症

 さまざま研究や調査がすすむにつれて、喘息は発作のある時だけ気管支に変化が起こるのではなく、日常普段から気管支の炎症が存在しているということが次第に明らかになってきました。特に喘息発作で亡くなった方の肺を調べていくと、ほとんどの方の気管支に長い間の炎症が存在していることが確認されるようになりました。そしてこの持続する炎症こそが「過敏性の亢進」を引き起こしている原因であり、発作性の疾患という概念から「気管支の慢性の病気」へと見方が大きく変わってきています。

 それに伴い喘息の治療も変わってきました。以前は発作時の対応や発作の誘因を取り除く事が中心でした。今日でも喘息発作を引き起こす抗原からの回避は大切な治療です。

 しかしそれだけではまだ十分とは言えず、気管支の慢性の炎症に対しての治療が重視されるようになってきました。すると発作の有無に関わらず炎症は存在するわけですから、喘息症状の有無に関わらず日常的に治療を行うことになります。

 これにより恒常的に気管支の炎症を抑え厳重な喘息管理を行えば、喘息患者も健常な方と変わらない毎日が過ごせる今日となっています。

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小児では質のよい治り方をめざそう

 以上の事柄は主に成人の喘息で明らかになっている事実です。小児の喘息も成人と同じなのかどうかは、まだ結論が出ていません。しかし、発作時の対応だけではなく日常的に喘息を管理する事に関しては反対意見はありません。

 体の成長に伴いもちろん肺・気管支なども大きくなってきています。それに伴い喘息は成長すると治ってしまうことがあります。しかし、約1割程度のお子さんは喘息を成人の年齢まで持ち越してしまいます。また治ったと思っていても、風邪を引いたときなどをきっかけに喘息が再び出る方もおられます。

 大人になると喘息が完全に治ってしまう人とそうでない人の違いは何なのか、それはまだ明らかになっていませんが、どうも小児期の喘息発作の回数や程度や重さが影響しているのではないかと考えられています。

 つまり喘息発作を起こすたびに気管支では炎症が起こっています。その回数が多く発作が重いとますます気道過敏性が高まります。そして喘息を起こしやすい状態(過敏性を残したまま)で成長してしまったと考えられています。

 こうして成人での慢性の気管支の炎症論が次第に確かな事実になるに連れて、小児科でも喘息の主な病態はやはり喘息発作は、軽く、短く、繰り返さない方が、喘息の質のよい治癒に結びつくと多くの専門の医師が考えています。それで小児でも喘息発作の対応だけでなく、日常の十分な喘息管理が大切とされるようになっています。


アレルギーとは

 どんな生物でも、細菌やウイルスの進入から体を守ったりする働きがあります。それを”免疫”といいます。これは体の外から入ってきたものを異物と感じて、それを排除しようとする反応です。生物(もちろん人も)は絶えず異物の進入にさらされています。体が異物と接触するたびに免疫が働きます。しかし、異物の進入の種類・強さ・多さに応じて免疫が反応すればよいのですが、時として異物に対して必要以上に反応してしまう場合があり、それは体にとって不快な症状や不適切な反応になってしまいます。これを”アレルギー”といいます。

 例えば、気管支喘息ならばダニやほこりに対して、アトピー性皮膚炎なら卵白、アレルギー性鼻炎なら杉の花粉が原因物質(アレルゲン)となっていることがよく知られています。これらの刺激から喘息をはじめとするアレルギー症状が起こるのです。

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アレルギーと気道の反応

 アレルギーの反応には、”IgE”と呼ばれる免疫グロブリン(免疫をつかさどる蛋白質)が主役をなしています。ダニなどのアレルゲンが入ってくると、ダニに対して反応するIgE(特異IgE)が結合し、免疫に関する細胞(肥満細胞)から次の免疫反応を起こさせる化学物質(ヒスタミン)などが大量に放出されます。これが先の喘息症状をもたらす気道反応を起こす事になるのです。

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気道に反応を起こさせるのもの

 喘息症状を引き起こす気道の反応は、アレルギー以外にもさまざまなものが原因があります。天候の変化、運動、お薬、タバコの煙、大気汚染、ストレス、風邪などの感染症、年齢、心理の問題など多数あげられます。

 アレルギーは喘息と強く関わっているとされていますが、それはあくまでも原因の一つで、喘息の発症にはさまざまな原因が複雑に絡み合って発症していると考えられています。アレルギーの除去や回避は喘息の大切な治療ですが、それだけで完治するものではありません。いくつもの原因を見つけだして順に取り除いていく根気のいる治療が大切です。

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喘息の病型

 小児気管支喘息の病型は以下の2つが考えられていますが、まだ検討される余地があるとされています。

アトピー型
 喘息発作を引き起こすアレルギー物質が特定されるタイプ(外来抗原に特異的な IgE 抗体が見つかるもの)
非アトピー型
喘息発作を引き起こすアレルギー物質が特定できないタイプ(外来抗原に特異的な IgE 抗体が見つからない)

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喘息と間違えやすい病気

喘鳴と呼吸困難をきたす病気は喘息以外にもたくさんあります。喉頭(のど)の異常で”クループ”と呼ばれる病気、気道内異物、百日咳、気管支拡張症、心不全などいくつもあります。

ゼイゼイと喘鳴などが聞かれて「あぁ、この子は喘息だわ」と思われる前に、やはりぜひ医師の診察を受けて下さい。

先天性、発達の異常にもとづく喘鳴
大血管の奇形、先天性心疾患、気道の解剖学的な異常、咽頭・気管・気管支軟化症、繊毛運動機能異常

感染にもとづく喘鳴
クループ、気管支炎、細気管支炎、肺炎、気管支拡張症肺、結核

その他
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、過敏性肺(臓)炎、サルコイドーシス、気管支内異物、肺梗塞、気胸、心因性咳嗽、過換気症候群、気管・気管支の圧迫(腫瘍)、肺浮腫

百日咳の咳を次のページで聴くことができます。 → ストリーミング百日咳について

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統計と喘息の転帰

喘息をお持ちのお子さんは日本全国を平均すると20人に1人とされています。男子と女子では1.5:1で男子に多く、都会化された地区でかつ南日本ほど喘息のお子さんの割合は高くなっています。

お子さんの喘息の発病は、1〜2歳までは、風邪症状にゼイゼイが伴う状況が時々みられ、2〜5歳頃に、咳や熱の症状なくゼイゼイが出現して喘息と診断されるようになる場合が多いようです。喘息のお子さんのうち2,3歳で60%が、6歳までで80〜90%が診断されています。その一方で喘息が自然に治癒していく(outgrow)は、12〜15歳頃で60〜80%で男子でその傾向が明かです。

しかし、完全に治ったかどうかは、なかなか明らかにすることが出来ず”寛解”と説明されることが多く、成人になってからも再発する可能性は考えておかねばなりません。

喘息が原因で亡くなるお子さんの割合は、10万人に対して0.4〜0.5名とされています。しかし小児期以後は、死亡率が高くなることが指摘されています。子供から大人に喘息を持ち越した場合を”思春期喘息”とも呼ばれています。この時期に本人の喘息の自覚や病気に対する理解が少ないと、喘息の治療や管理が難しくなり治療に難渋することが死亡率を上げている原因と考えられています。

【参考】「すこやか村・喘息館」のライブラリーに喘息死の統計が掲載されています。

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西藤こどもクリニック
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