このWebページは滋賀県医師会学校医部が発行した「小児期からの生活習慣病予防への取り組み」と題するパンフレットから作成しました。
血中のコレステロールは、食事の中にふくまれるコレステロールのほかに、脂肪、糖質、タンパク質から肝臓でつくられます。ここでつくられたコレステロールは、比重の一番軽いリポ蛋白、すなわちVLDLコレステロールとして血中に放出されます。このVLDLからしだいに脂肪酸が遊離し、LDLコレステロールとなり、このLDLコレステロールが血管壁に取り込まれるために動脈硬化を起こします。また、ほかの血中のLDLは肝臓に再び取り込まれ、肝臓で取り込まれたLDLは胆汁となり消化管に排泄されます(図2)。このため、高コレステロール血症の治療は、食物中の脂肪、タンパク質、炭水化物をバランスよく摂ることにより、肝臓でのコレステロールの過剰な生成を押さえようとするための食事療法を行います。この食事療法を行うにあたって、食物中のタンパク質(P)、脂肪(F)、炭水化物(C)をバランスよく食べる指標として「PFCバランス」ということばがあります。これは、必要なカロリーをタンパク質は12〜13%、脂肪が20〜30%、炭水化物が57〜68%の割合で摂ることが適量とされています。ところが、わが国の5歳の小児の年次別PFCバランスを見ると、1952年には脂肪が12.6%であったのが、1970年には28.4%、1982年には33.8%となってきています。日本人、とりわけ小児のこのような脂肪の摂りすぎが、小児の血中コレステロール値を上昇させているものと思われます。このため、とくに脂肪の摂りすぎに注意する必要があります。
運動は、エネルギーを消費することによりコレステロールの産生を抑え、一方、善玉コレステロール(HDLコレステロール)を増加させ、動脈硬化を予防します。1時間運動した場合のエネルギー消費量は、ゆっくりした歩行で160kca1、ふつうの歩行で200kca1、急ぎの歩行で270kca1、エアロビクスやジャズダンスで300kca1、ゆっくりとした水泳で360kca1となります。この数値を見ると、スポーツジムヘ通わなくても、急ぎ歩行を心がければけっこうな運動療法をしていることになります。また運動療法の場合、楽しく継続できる運動を選ぶことが大切です。とくに小児の場合は、歩いて通学し、体育の時間や遊びの時間に十分に体を動かしていれば運動量は十分だと考えられます。 *血中のコレステロールこは、主にLDLコレステロールとHDLコレステロールがあります。先に述べたように、LDLコレステロールは血管壁に蓄積していくコレステロールであり、動脈硬化を促進させるはたらきがあります。また、HDLコレステロールは、血管壁に蓄積したコレステロールを取り除くはたらきをするコレステロールで、このため「善玉コレステロール」と呼ばれています。運動することによってこのHDLコレステロールが増加すると言われています。
大人の高脂血症に対しては、メバロチンやリポバスといった薬が使用されています。この薬は、食物から肝臓でコレステロールが生成されるのですが、その生成される過程で、アセチルCoAからコレステロールになる部分を阻害することにより、コレステロールの産生を抑える治療薬です。この薬は小児での安全性は確立されていないので、小児科領域では現在のところ使用できません。先に述べたように、コレステロールは胆汁として体外に排泄されます。小児科ではこれを助けるコレスチラミンを使用することがありますが、飲みにくい薬です。