1960年代のイギリスで、気管支拡張剤の携帯用吸入器(MDI)の販売量と喘息で亡くなる患者の数が比例しており(左グラフ)、携帯用吸入器が原因で亡くなっているのではないかと指摘され大きな議論となった事がありました。それ以来、気管支拡張剤の携帯用吸入器の使用に歯止めがかかった時期がありました。その後吸入用の薬剤の改良が進められ、気管支拡張剤の心臓に対する影響も少なくなりました。MDIでは気管支拡張剤以外に、抗アレルギー剤、ステロイド剤(BDI)の吸入薬も開発され、症状に応じたお薬の選択の幅は広がりました。お子さんに対する使用も、スペーサー(チャンバー)の工夫により次第に広がってきています。
そして最近日本では、抗アレルギー剤の一つであるインタールの毎日の持続吸入に少量の気管支拡張剤(β交神経感刺激剤)を併用によって、著しい喘息発作の予防が報告されました。そして喘息発作を起こさせない”ゼロ・レベル”の管理も重視されるようになりました。それ以来、重症の喘息のお子さんでは自宅に吸入器の購入を勧めることが増えてきました。
ところが吸入器やMDIが普及するにしたがい、再び弊害が指摘されるようになりました。自宅に吸入器があるので発作時も慌てなくてよい反面、喘息発作が頻回に出現しても、つい指示された回数以上の吸入を自宅で行い、喘息発作時の受診が遅れる場合が多くなっていることです。またMDIはお子さんに持たせて自己管理となりやすく、実際の使用回数が保護者に把握しにくい事もあります。
本来自宅で行う吸入は、喘息発作の予防を目的としたもので、喘息発作を自宅で治療するためではない事を、決して忘れないようにして下さい。また発作時の対応はかかりつけの医師と十分に相談し、MDIの決められた使用法を守るように心掛けて下さい。